目次
何が変わったのか ― 改正の概要
2026年4月15日、出入国在留管理庁(入管庁)の運用変更が施行され、技術・人文知識・国際業務(以下「技人国」)ビザの申請に大きな変更が加わりました。
これまで技人国ビザの取得に法律上の日本語能力要件はなく、企業の業務内容や本人の学歴・実務経験が審査の中心でした。しかし今回の改正により、「対人業務」に従事する外国人材がカテゴリー3またはカテゴリー4の企業で働く場合、CEFR B2レベル以上(JLPT N2相当)の日本語能力の証明が新たに必要となりました。
対象はあくまで新規申請が中心です。すでに技人国ビザで在留中の方が在留期間を更新する場合は、現時点では直ちに影響を受けるわけではありません。ただし、転職に伴う在留資格変更や、カテゴリー3・4企業への勤務先変更の届出を行う場合は、新基準が適用される可能性があります。
なぜN2が必要になったのか ― 背景と目的
今回の運用変更には、複数の背景があります。
労働環境のトラブル防止
近年、技人国ビザで来日した外国人材が、日本語の意思疎通が不十分なまま対人業務に配置され、職場でのミスコミュニケーションやクレーム、労務トラブルに発展する事例が増加していました。入管庁としては、一定の日本語力を担保することで、外国人本人と企業双方のリスクを軽減する狙いがあります。
技人国ビザの適正化
技人国ビザは本来「専門的・技術的な業務」に従事するための在留資格です。しかし実態として、名目上は「営業」や「通訳」としながら単純作業に従事させる不正利用が報告されていました。日本語能力要件を課すことで、実際に対人業務をこなせる人材かどうかの客観的基準ができ、審査の厳格化につながります。
特定技能との制度的整合性
特定技能ビザでは以前から日本語能力試験が要件に含まれています。技人国ビザにも同様の基準を導入することで、在留資格間の制度整合性を高めるという意図もあります。
対象となる企業・職種
企業カテゴリーとは
入管庁は、企業を規模や信頼性に応じて4つのカテゴリーに分類しています。今回のN2要件が適用されるのは、カテゴリー3とカテゴリー4の企業です。
| カテゴリー | 企業の特徴 | N2要件 |
|---|---|---|
| カテゴリー1 | 上場企業、国・地方公共団体、独立行政法人など | 対象外 |
| カテゴリー2 | 前年分の源泉徴収税額が1,000万円以上の企業 | 対象外 |
| カテゴリー3 | 前年分の源泉徴収税額が1,000万円未満の企業 | 対象 |
| カテゴリー4 | 新設法人など源泉徴収税額が不明の企業 | 対象 |
カテゴリー1・2の企業は、規模が大きく社内教育体制が整っている前提があるため、今回の要件は適用されません。一方、中小企業やスタートアップなどカテゴリー3・4に該当する企業は、対人業務に外国人材を配置する際にN2以上の証明を求められます。
対象となる「対人業務」とは
今回の要件が適用される「対人業務」とは、日本語を使用して顧客や取引先と直接コミュニケーションを取る業務を指します。具体的には以下のような職種が該当します。
- 翻訳・通訳:社内外の会議や商談における通訳業務
- 語学教育:日本人向けの外国語講師(授業運営に日本語が必要)
- 営業・販売:法人営業、店舗での接客販売、カスタマーサポート
- 広報・マーケティング:日本語でのプレスリリース作成、メディア対応
- コンサルティング:日本人顧客への提案・助言業務
認められる日本語能力の証明方法
N2レベル以上の日本語能力を証明する方法は、JLPT(日本語能力試験)だけではありません。入管庁が認める主な証明手段は以下のとおりです。
| 試験名 | 合格基準 | 備考 |
|---|---|---|
| JLPT(日本語能力試験) | N2以上合格 | 最も一般的。年2回(7月・12月)実施 |
| BJT(ビジネス日本語能力テスト) | 400点以上 | ビジネスシーン特化。CBT方式で随時受験可 |
| J.TEST | 550〜600点以上(A-Cレベル) | 年6回実施。実用的なビジネス日本語を測定 |
| NAT-TEST | 2級以上 | 年6回実施。JLPTと類似の出題形式 |
いずれの試験でも、CEFR B2レベル以上に相当するスコアであれば認められます。JLPTは年2回しか実施されないため、直近で取得が難しい場合はBJTやJ.TESTなど随時・高頻度で受験できる試験の利用が現実的です。
免除されるケース
以下の条件に該当する場合は、N2要件が免除されます。
免除条件1:日本の大学・大学院を卒業
日本国内の大学(学部)または大学院を卒業・修了した外国人は、在学中に十分な日本語環境で学んだと見なされ、N2証明は不要です。
免除条件2:日本の専門学校を卒業(専門士取得)
日本の専門学校で「専門士」の称号を取得した場合も免除対象です。授業が日本語で行われるため、N2相当の能力があると推定されます。
免除条件3:日本に20年以上在住
長期在住者は生活の中で高度な日本語力を身につけていると見なされ、試験結果がなくても免除されます。
免除条件4:カテゴリー1・2企業での就労
上場企業や源泉徴収税額1,000万円以上の企業で働く場合は、そもそもN2要件の対象外です。
免除条件5:対人業務に該当しない職種
プログラマー、研究者、設計者など、顧客や取引先との直接的なやりとりが業務に含まれない職種は対象外です。
企業側の対策 ― 今すぐやるべきこと
1. 自社のカテゴリーを確認する
まず、自社がカテゴリー3・4に該当するかを確認してください。前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の「源泉徴収税額」が1,000万円未満であればカテゴリー3、法定調書合計表がなければカテゴリー4です。カテゴリー2以上であれば、今回の要件は適用されません。
2. 採用予定者の日本語能力を早期に把握する
内定を出す前に、候補者がN2以上を取得しているか確認しましょう。未取得の場合は、入社時期に間に合うよう受験スケジュールを立てる必要があります。JLPTは年2回のため、試験日から合格発表まで数ヶ月かかることを考慮してください。BJTであればCBT方式で随時受験できるため、スケジュール上の柔軟性があります。
3. 職務内容の記載を見直す
在留資格認定証明書交付申請の際、職務内容の書き方が重要です。対人業務に該当しない職種であれば、その旨を明確に記載することで、N2要件の適用を回避できる場合があります。逆に「営業」「接客」「通訳」など対人業務が含まれる場合は、N2証明の提出を忘れずに準備してください。
4. 日本語教育の支援体制を整える
中長期的に外国人材を採用し続けるのであれば、社内での日本語教育プログラムの導入や、外部の日本語学校との提携も検討すべきです。N2取得をサポートすることは、採用競争力の向上にもつながります。
外国人材側の対策 ― キャリアを守るために
1. できるだけ早くN2を取得する
現在N3レベルの方は、すぐにN2の学習計画を立てましょう。N3からN2への壁は大きいとされますが、計画的に学習すれば6ヶ月〜1年で到達できます。JLPTにこだわらず、BJTやJ.TESTなど受験機会の多い試験も活用してください。
2. 日本の学校を卒業していれば免除
日本の大学や専門学校を卒業した方は、N2の試験結果がなくても免除されます。卒業証明書が証明の代わりになるため、安心してください。
3. 職種選択の幅を広げる
N2の取得が間に合わない場合、対人業務ではない技術系の職種(SE、プログラマー、CAD設計など)を検討するのも一つの手段です。これらの職種は今回の要件の対象外となる可能性が高いため、キャリアの選択肢として視野に入れてください。
4. カテゴリー1・2企業を選ぶ
大手企業や上場企業(カテゴリー1・2)への就職であれば、対人業務であってもN2要件は適用されません。就職活動の際に企業のカテゴリーを意識することで、選択肢が広がります。
5. 在留中の方は慌てない
すでに技人国ビザで就労中の方は、現在の在留期間の更新時に直ちにN2を求められるわけではありません。ただし、転職する場合は新しい勤務先のカテゴリーと業務内容によって要件が適用される可能性があります。将来の転職に備えてN2を取得しておくことをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q. すでに技人国ビザで働いていますが、すぐにN2が必要ですか?
A. いいえ。現在の在留期間を更新するだけであれば、直ちにN2が求められるわけではありません。ただし、カテゴリー3・4企業への転職や在留資格変更の際には新基準が適用される可能性があります。
Q. N2に合格していなくても、BJTで400点取れば大丈夫ですか?
A. はい。JLPT N2のほか、BJT 400点以上、J.TEST 550〜600点以上、NAT-TEST 2級以上など、CEFR B2相当の試験であれば認められます。
Q. 自社がカテゴリー3かどうか分かりません。
A. 前年分の「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」に記載されている源泉徴収税額を確認してください。1,000万円以上であればカテゴリー2、未満であればカテゴリー3です。顧問税理士に確認するのが確実です。
Q. エンジニア(SE)として採用する場合もN2は必要ですか?
A. 社内開発が中心で、顧客や取引先との直接的なやりとりが含まれなければ「対人業務」には該当せず、N2要件は適用されない可能性が高いです。ただし、申請書類上の職務内容の記載が審査のポイントとなります。
Q. 日本の専門学校(日本語学校ではなく)を卒業していれば免除されますか?
A. はい。日本の専門学校で「専門士」を取得していれば免除対象です。ただし、日本語学校のみの修了は免除条件に該当しません。
Q. この制度変更はいつから適用されますか?
A. 2026年4月15日から施行されています。同日以降に提出される新規の在留資格認定証明書交付申請から適用されます。